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 [第11試合 日・タイ国際戦 ライト級5回戦]
ソムチャーイ高津 vs パーサタン・オーエンジャイ
モチベーションは保たれているか?
 7月の仙台で笹羅選手(仙台青葉)を延長の末に下し(公式結果はドロー)、NJKFライト級王座への挑戦権を手に入れた高津選手。その相手となる王者は、昨年、王座決定戦を争った佐藤選手(名古屋JKF)である。この試合、高津選手が得意とするヒジ撃ちで逆に切り裂かれ、またしてもあと一歩というところでタイトルに届かなかった。
 再びめぐってきたタイトルへの挑戦は、全日本時代を含め、4度目となる。しかも、相手は、昨年の決定戦と同じ佐藤選手。借りを返すとともに、初の戴冠の絶好の機会を得たといえるだろう。
 しかし、タイトルマッチは流れた。佐藤選手が9月のタイ遠征で13針も縫う傷を負わされ、試合することがかなわなくなってしまったのだ。高まりかけた機運は、ここで失速することを余儀なくされた。
 それでも、今日の興行で高津選手の試合は組まれることが決まった。が、はたしてモチベーションは維持されているだろうか?対戦相手は、高津選手の気合いの空回りを避けるためには、それ相応の選手が選ばれる必要があった。そこで、選ばれたのは、パーサタン・オーエンジャイ選手。あらためていうまでもなく、ヒジで片っ端から切り裂き、日本人キラーとして名を馳せているムエタイの選手である。対日本人連勝記録こそ、鈴木選手にストップさせられたが、依然としてそのヒジの脅威は十分すぎるもの。
 高津選手の気持ち次第では、この試合、あっさり終わってしまうだろう。それとも、高津選手のモチベーションは維持されているのか?その時は、きっと高津選手の試合らしい、観客を巻き込むような熱い試合を見せてくれるだろう。



ラウンド1 津選手が軽いローから入り、しばらく見合いが続き、パーサタン選手もローを返す。そして、高津選手の右ローに合わせ、懐へはいるとヒジを放つ。ローで牽制する両者。高津選手が、ロー、ミドルと続けると、それをキャッチしたパーサタン選手がヒジを振り、さらに投げ捨てる。パーサタン選手は、右アッパー左フックとパンチも狙う。終盤、距離の詰まった両者が組み合うと、パーサタン選手はガードが開いた高津選手に右ヒジ。さらに首の取り合いから頭を押さえると、ヒジを落としていく。高津選手のひたいは、早くもこぶが出来ていた。

ラウンド2 ぐに、コーナーで組み手を争いながら両者ヒザを回す。さっと組み手を引き抜いたパーサタン選手は、すかさずヒジを振る。ミドルレンジで見合うと、パーサタン選手がアッパーから組みついて、ヒジ。高津選手のローにはテンカオ。手四つの状態からパーサタン選手はパンチを巧く使う。パーサタン選手がヒザで飛び込んでヒジを落とす。終盤、両者首相撲からヒザを回すと、会場もにわかにヒートアップ。

ラウンド3 々に組み合ってヒジ、ヒザを激しくかわす両者。離れると、高津選手が左ジャブ、パーサタン選手がアッパーと単発でパンチを交わすとすぐ密着。再びヒザの展開。力の入ったポジション争いから、高津選手がコーナーに押し込んで、体を預けながら、一気にヒザとヒジで攻め立てる。防戦しながらもヒジ撃ちの隙をうかがうパーサタン選手だが、高津選手がロープに押し込むと、逆に隙をついた高津選手の右ヒジが痛烈に顎に入ってダウン!かろうじて立ち上がるパーサタン選手だが、その後も高津選手の猛攻が続く。一気呵成に右ヒザを打ちつけ、ヒジ撃ちでコーナーに追い込むと、右ストレート。これで、パーサタン選手の体がふらつく。パーサタン選手もヒザで応酬するが、高津選手がなおもヒザを勢いよく打ちつけ畳みかける。パーサタン選手はフラフラと下がるが、ゴングに救われる。


肘を狙う両者、
一瞬も気が抜けない

ラウンド4 津選手が開始直後から距離を詰めて、ヒザを突き上げる。パーサタン選手もヒジを狙うが、高津選手もガードしており、そこから逆にヒザを返す。高津選手が休まずヒジ、左フックと多様に攻め立てる。パーサタン選手は単発でパンチを返すものの、ダメージが回復していない様子。そこに高津選手が左ヒザを突き上 げながら前に出る。会場も、ヒザに合わせて掛け声が上がり、さらにヒートアップ。ヒジとヒザで圧倒すると、高津選手はすかさずカットをアピール。ドクターチェックが入るが、ここは続行。そこから、パーサタン選手も前に出るが、高津選手がパンチの打ち合いに応じても打ち勝ち、左ロー、左ミドル、右ヒジと、手を出し続ける。終盤、やや疲れてペースが落ちるが、パーサタン選手の流血も激しく、高津選手が圧倒したという印象。

ラウンド5 ーサタン選手は前蹴りで吹っ飛ばし、高津選手も、右ロー、前蹴りを返す。必至にパーサタン選手が左フック、右ヒジで逆転を狙うが、距離が詰まり首相撲に。やや高津選手の組み手が優るが、そこで一度離れる。すると、パーサタン選手の流血に、再度ドクターチェック。会場のタイ人グループからは、大丈夫コールが起きるも、ここでドクターはストップを勧告。レフェリーが高津選手のTKO勝ちを告げた。

高津、気迫の勝利


高津選手、気迫の勝利。そして、次の照準は1月の佐藤戦に。
 試合前には、早い回ならばパーサタン選手のヒジが高津選手を襲い、終盤まで行けばスタミナに優る高津選手に勝機、と予想していた。
 確かに、序盤のパーサタン選手のヒジは、いやらしく隙をうかがい、鋭く振り下ろされる凶器そのものだった。しかし、それに負けずに応え、首相撲をよしとして渡り合った高津選手の技量と気迫が、中盤以降を完全に支配した。
 高津選手の奪ったダウンは、その一撃でKOしても不思議のないものだったが、立ったパーサタン選手もいつになく気合いが乗っていたのだろうか。
 しかし、心配されたモチベーションについても、ジムの仲間との練習に集中し、特に落胆したところを見せなかった。また、自身の引退への崖っぷちを意識し、佐藤戦では佐藤有利の下馬評に内心忸怩たる思いがあったというこの試合、高津選手の気持ちは、最後まで攻め手を休めず前に進み続け、名手パーサタン選手をヒザとヒジで圧倒。試合後、佐藤選手とイーブンのところまで来たことを宣言したが、確かにタイトルを争う資格を証明して見せたといえるだろう。
 そして、次の試合は、おそらくは1月の佐藤選手とのタイトルマッチ。ますます、高津選手は頂点に向けて加速する。

 最後に、会場の雰囲気にも触れておきたい。そう、観客の熱気が素晴らしかった。近時の高津選手の試合は、そのスタイルが認知されたのか、あまり日本のファンには好まれない首相撲にも、声援や掛け声が上がる。そして、ヒジやヒザの激しい打ち合いには「オッーイ!オッーイ!」という掛け声。いつも同じことを書いて恐縮だが、試合と一体感を覚えるようなこういう体験が、キックボクシングの大きな魅力となっている。これを読んでいる皆さんには、是非会場に足を運んでもらい、喜びを分かち合えるような試合に巡り会って欲しい。

文 片岡


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