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[第11試合 ミドル級タイトルマッチ 5回戦]
新田明臣 vs 藤原鉄志
速する頂点。
者新田選手は、王座獲得当初、なかなか安定した力が出せず、危うい試合を続けていた。しばしば新田選手の試合について回った「逆転劇」という表現は、必ずしも王者の試合に対する誉め言葉とはいえないだろう。
 しかし、近時の新田選手の試合は、立ち上がりの不安定さこそ払拭できていないが、中盤以降は攻守のバランスもよくなり、力強い闘いを見せている。
 その、王者の力強さを支えるもの、王者の矜持こそ、ローキック。
 昨年末には、J−NETWORKの小比類巻選手をローでKO。タイへの遠征においても、タイ人をローキックであと一歩まで追い詰めたという。対抗戦、積極的な武者修行を通じて、あらためて自らの武器を再確認したことだろう。
 今日の試合でも、もちろん、新田選手の勝利の鍵となるのはローキックだろう。タイトルマッチを、得意な武器で勝利すれば、また王者の自信は深まるに違いない。
する藤原選手は、前回の試合では、古豪船木実選手を判定で撃破。さすがに、ベテランらしい試合運びの巧さを見せた船木選手に対し、パンチを積み重ね、時に爆発的に畳み込んだ藤原選手の完勝だった。
 しかし、やや大きなスイングのパンチは、船木選手に見切られてカウンターをもらう場面も少なくなかった。いささか「穴」が明確な感じもする。
 今回、新田選手は「待ち」の選手ではないので、試合は噛み合うことだろう。ポイントとなるのは、その手持ちの武器、ということになるだろうか。



ラウンド1 者、軽いローから入る。ローからワンツーの交換。牽制がしばらく続く。藤原選手が、パンチのコンビネーションで前に出る。ワンツーから、アッパー、大きなフックと、新田選手を押し込む。それに対して新田選手はガードを固める。藤原選手は、少しずつプレッシャーを掛け、ガードの上からかまわず叩く。時折ローを放ち、ガードを崩した新田選手にフックを入れる。藤原選手は、ロープまで追い詰めるとヒジも狙う。新田選手は、ガードは堅いが、その分手数に劣る。

 
藤原のパンチを凌ぎながら

 
ローを返す新田

ラウンド2 原選手が、新田選手のジャブに合わせて飛び込んでヒジ。新田選手がガードするが、これをその上からワンツーとヒジでこじ開けようとする。新田選手はなおもガード。時折単発でローを返す。藤原選手は、ミドルレンジを避け、パンチ勝負。ワンツーからスリーでアッパー、フックを返す。新田選手は、藤原選手の離れ際にローを放つ。終盤、藤原選手は、パンチで攻めきれず、逆にタイミングを掴んだ新田選手が、少しずつ前に出始め、ローとミドル。

ラウンド3 にジャブを出し、先手をとる藤原選手。当たらなくてもスリーまで返して、先手をとろうとする。新田選手は、冷静にガードして捌く。藤原選手が戻す所にローを内股に。さらに新田選手のローが続くと、藤原選手の足が止まり始める。何とか前に出ようとする藤原選手に、テンカオ。藤原選手は必死にパンチを出そうとするが、棒立ち気味で足がついていかない。パンチを放とうとする藤原選手が踏み込んだ所に左内股にロー。ついに、藤原選手ダウン1。
 気合いを入れて立ち上がる藤原選手は、ジャンピングの縦ヒジで奇襲。勢い余って新田選手もろとも倒れる。この際、新田選手は後頭部をカット。再開後は、新田選手が左右のローキックのラッシュ。藤原選手たまらずダウン2。
 これも、必死の形相で立ち上がった藤原選手だったが、新田選手は再開後ハイキック、パンチでラッシュ。防戦一方の藤原選手に対し、最後は正面からローキックを畳み込み、藤原選手は前に崩れて3ノックダウン。




者の矜恃。
合を決めたのは、ローキックだった。
 初回、やはり受けに回ってしまい、ほとんど手のでなかった新田選手。ガードを固めるシーンが目立ち、藤原選手のパンチに押されてしまった。これは、技術的なものと言うより、メンタルな部分の課題なのだろう。
 2Rの中盤以降になって、ようやく本来の動きを取り戻し、すなわちローキックで試合の主導権を握り始めた。このローキックが、実に効果的だった。3Rには、目に見えて藤原選手の動きが落ちていた。

 最近、新田選手は、積極的にオランダ、タイへと渡って武者修行を重ねている。そこでは、決してオランダ・スタイル、タイ・スタイルを模倣するのではなく、自分自身のスタイル、いわば、新田スタイルというべきものを模索しているようだ。
 そして、それは少しずつ形をなしているのではないだろうか。「ローキックしかない」ではなく、「ローキックがある」ということ。
 一つ大きな武器がある選手は、相手のバランスの良さを突き崩すことができる。そして、大きな武器があるからこそ、余裕を持って動くこともできるだろう。ローキックという武器に自信を持ち、それを踏まえた新田スタイルを完成すればいいのではないか。

 今でも新田選手は、王者として、完成途上にある。  

文 片岡


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