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[第12試合 日タイ国際戦61.5kg契約 5回戦]
佐藤孝也 vs クルークチャイ・ゲオムサリット
成者の挑戦。
藤選手が、日本のライト級にあって、トップクラスの選手であることは誰しも認めるところだろう。攻守のバランスの良さ。しかも、それがハイレベルに調和し、なおかつスタミナに裏付けられている。紛れもないオールラウンダーである。
 不幸な多団体時代にあって、既に、NJKFの中では真にライバルと呼べる相手もなく、孤高の王者と化しつつある。前回に続き、今日の試合も国際戦となった。前回は、フランス王者を冷静に捌いてカウンターで撃破。決して悪くない、むしろテクニカルな好選手だったが、佐藤選手は2RにKOで葬り、自らの完成度の高さを誇示した。
 しかし、今日の相手が、容易でないことは明白である。
 これは、ただの国際戦ではない。ムエタイとの闘いである。未だその試合を見たことはないが、「元ルンピニー系王者」「現ラジャ系トップランカー」。…この肩書は、それだけで破壊力十分である。クルークチャイ選手の、実力は推して知るべし、といったところだろう。
 月並みな言い方で恐縮だが、まさに強豪。この試合、佐藤選手が「挑戦者」であり、その挑む相手は「ムエタイ」、ということにならざるをえないだろう。



ラウンド1 藤選手がやや前に出ると、クルークチャイ選手も距離を詰め、組み合う。そのまま組み手争いになるが、クルークチャイ選手は佐藤選手の頭が下がったところに、組み手からそのままヒジ撃ち。密着させた腕をずらすように突き立てる。首相撲では、佐藤選手は頭を付けて押し込もうとするが、クルークチャイ選手がうまく体を入れ替え、横に回り、そこからヒザを回す。クルークチャイ選手はヒザ、ヒジを自由に使いこなし、攻撃の手を休めない。佐藤選手は、有利なポジションを得ようと体を入れ替えようとするが、動かす度にクルークチャイ選手のヒザが入る。ヒザを回して、ガードが下がると、肘を打ち付ける。クルークチャイ選手は、組み手争いで常に優位に。腕をねじ込み、ロック堅く、佐藤選手に何もさせない。時折、佐藤選手は、単発でパンチとローを試みるが、距離を詰められ、攻撃の芽を潰されてしまう。

 

ラウンド2 ングと同時に佐藤選手はパンチの距離に進んで、ワンツー、ガードの下から突き上げるアッパーを狙う。クルークチャイ選手は、すぐに組みついて首相撲。ロープ際に押し込んで、ヒザを出す。ヒザは、どこからでも繰り出される。体を入れ替える途中にも、ヒザを出し、佐藤選手がヒザに意識をやるとヒジを振るう。隙なく、間断無く繰り出されるヒザに、佐藤選手の体が折れる。佐藤選手は、頭部のガードは崩さず、ヒザを耐える。ブレイクすると、佐藤選手はパンチを放つが、クルークチャイ選手は顎をひいてガードを堅めながらパンチの距離を潰す。佐藤選手の下がりながらのアッパーはガードの上を滑る。組みつくと、ヒザを回し、嫌がる佐藤選手が動くところを狙ってさらに攻め込む。

 

ラウンド3 始後、佐藤選手は進み出て、ガードの上から構わず殴る。クルークチャイ選手は、やや組み位置が悪くてもヒザを打ちつけ、態勢を建て直す。離れると前蹴りで距離を作り、近づくとテンカオ、組みつき際にヒジ、動きを止めると首相撲。クルークチャイ選手は、やや疲れ気味。中盤辺りから前蹴り、サイドキックを使い、距離をおこうとする。少し休むと、飛びヒザやヒジで一気に前に。距離が詰まるとすぐに首相撲に。

 
 完全にパンチの距
 離を殺される佐藤

ラウンド4 ルークチャイ選手は、前半のようにすぐに前には出ない。代わって佐藤が追いかける展開に。組み合っても、ヒザを出さず、腕でがっちりホールドするクルークチャイ選手。逃げの態勢に。佐藤選手は、この機に前に出てワンツーからロー、ミドルのコンビネーション。クルークチャイ選手は、パンチの距離を避けて、サイドキック、前蹴りで突き放し、近づかれるとうまく横にステップしてロー。なかなかクルークチャイ選手を正面に釘付けられない佐藤は、ひたすら前に出続ける。

 
 パンチの距離になってもクル
 ークチャイのガードは固い

ラウンド5 藤選手はいきなり飛びつく。接近してヒジを立て、組みつくクルークチャイ選手を投げ捨てる。再開後もすぐ前に出て組みつき際のヒジを狙う佐藤選手。クルークチャイ選手は、下がりつつ横に回りながら、巧みにガード。佐藤選手は最後まで前に出てワンツーからロー。しかし、クルークチャイ選手は、最後まで撃ち合いを避ける。佐藤選手は、前には出続けたものの、追いきれず。  
 遂に佐藤は首相撲地獄から抜け出せず

相撲という煉獄。
半、クルークチャイ選手は、(言葉は悪いが)佐藤選手を子供扱いした。
 執拗に、自分の型に佐藤選手をはめ込み、首相撲とヒジ、この最大の武器を繰り出し続けた。
 正直な話、佐藤選手の体がいつまで保つのか。いつまで闘争心を維持できるのか…いつ崩れても不思議のない展開だった。クルークチャイ選手のヒジは巧みであり、種類、角度、タイミングなど、どれをとっても佐藤選手のそれを遥かに凌駕した。ヒザも同様。どこからでも、いつでも突き上げられるヒザは、佐藤選手を休ませない。佐藤選手も必死に、組み手を争い、体を入れ替えようとするが、その行く手を阻むように待ちかまえるクルークチャイ選手の巧さ。
 常に先手をとり続けたクルークチャイ選手が、完全に前半を制した。
 後半に入り、やや攻撃の手を緩めたクルークチャイ選手に、佐藤選手が必死に食い下がる。パンチとローでクルークチャイ選手を追うが、なかなかパンチの距離を保てない。クルークチャイ選手の間合いの妙が、佐藤選手を翻弄した感が強い。結局、佐藤選手はクルークチャイ選手を追いきれなかった。
かにムエタイの壁は高い。あれほどまでにしつこい首相撲の展開は、今まで佐藤選手は経験したことがないだろう。
 佐藤選手はよく我慢したと思う。5Rの試合として組み立てたのならば、前半我慢して後半勝負に出る、という作戦は、当然アリだろう。我慢に必要な体力、そして何より気力は、普段の練習によって裏付けられるもの。きっと良い練習をしているのだろう。
 しかし、首相撲は、日本人選手に共通する弱点といわれている。それは、とにもかくにも、経験の差ではないか。そして、経験は、練習だけではカバーできないものといわれている。
 必ずしも、首相撲そのものに強くなる必要はないが、首相撲に入る前に封じる術を経験で会得するには、相手が首相撲を挑んでくる事が前提となる。しかし、日本では、首相撲を得意とする選手はあまり多くない。結局、どちらにしても首相撲に対応するのは困難である…。

 楽観すれば、ここが克服できれば、ムエタイ越えという福音の瞬間へと大きく近づくことになる。しかし、そこまでに至る煉獄は、果てしなく巨大であり、甚だしく過酷なものだろう。
 

文 片岡


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