Interview & Camera 井田英登
須藤元気の背中には、翼が生えている。
今や彼のトレ−ドマ−クとなりつつある、ナスカの地上絵を模した線画のタトゥだ。大空を駆ける巨大な鳥に、人は自由の象徴を見るのかもしれない。
本来”ギミック厳禁、ストイック王道”の筈のパンクラスマットで、ド派手な入場パフォ−マンスを繰り広げ、ドレッドへアを振り乱しながら闘う彼の姿は、これまでのパンクラスにはありえなかったほど異質な存在である。
しかし、なぜかこの不思議な男は、あっさりパンクラスの光景のなかに溶け込んでしまった。正式な団体所属選手で無いにもかかわらず、いつのまにかP's LABの合宿所に住み込み、練習もパンクラス勢こなしているという。
会場でも彼の入場パフォ−マンスを心待ちにし、破天荒なファイトに声援を送るファンが着実に増え始めたのがわかる。
須藤は、自分のパフォ−マンスを”ア−ト”と呼んではばからない。闘いも、パフォ−マンスも全て自分を表現し、アピ−ルする手段なのだ、と。
そこには、”計算”はあるが、あざとさは感じさせない。
「目立ちたい」「インパクトを与えたい」という意味では、ひた向きですらある。下手なパフォ−マンスは命取りになるというリスクを背負いながら、須藤は自分の方法論を曲げない。
観客はその姿に、生き樣としての”真剣勝負”の匂いをかぎとっているのかもしれない。
須藤の登場に意外なまでのパンクラスの柔軟性が浮き彫りにされたのも見逃してはならない。須藤という異分子をすんなり受け入れ、輝かせることに成功したパンクラスマットは、いまや生え抜きのパンクラシストだけではなく、菊田早苗や須藤といった外様組、あるいは慧舟会、rJwといった外部の選手が自由に活躍を繰り広げる場所となりつつある。創立以来7年、我々はパンクラスの方向性を、必要以上にストイックで求道的なものと誤解してきた気がする。須藤の存在は、パンクラスという場が潜在的に内包するグラマラスな展開の可能性を示唆しているのかもしれない。とすれば、2000年以降のパンクラスの方向性を占う上で、須藤が果たす役割は決して小さくはない。彼の持つ巧まぬユ−モアと自由な発想が、パンクラスの明日に何をもたらすのだろうか?